ウッドショックを調べてみる
設計事務所のBlogに興味がある方は、ニュースや新聞などでで「ウッドショック」という単語を目にしたり、聞いたりしていることも多いかもしれません。最近問い合わせがある方にはこのウッドショックのことを触れ、説明するようにしているのですが、もうちょっと詳しく説明したいなと思い調べてみました。
ウッドショックとは
「ウッドショック」とは、1970年台に2度起きたオイルショックのようなことが家を建てるための木材の市場でも起きており、木材の需給が逼迫して世界的に価格が高騰していることをウッドショックと言っています。
街を歩いていると、基礎工事が終わっただけの状態で、軸組が建たない現場を見かけている方もいるかもしれません
。これは木材価格がもの凄く上がっていることにより、木材が調達できなかったり、調達ができたとしても予算オーバーしてしまい、工事が延期してしまっている可能性があります。
ウッドショックが起きた原因
ウッドショックが発生した原因は、アメリカと中国の経済状況によるところが大きいと言われています。アメリカではワクチン接種が進み経済が活性化と郊外への移住により木材の需要が高まっています。コロナ禍でNYを離れて郊外に戸建て住宅を建てる人が増え、木材が必要となっています。このことにより、アメリカ国内での新築住宅需要の増加や木材相場の変動が起きています。
アメリカの住宅の購入の環境として、金利が安く、住宅ローンが借りやすいということも、アメリカ国内で次々に家を建て始める人が増えている要因で、その結果、木材価格が一気に高騰しました。アメリカの住宅着工件数は、最新のものでリーマンショック前の2006年以来の高水準が起きています。リーマンショックでは何が起きたかというと、住宅件数がもの凄くピークだった時で、それがリーマンショックにつながったわけですが、それ以来ということなので、いかにアメリカの住宅着工件数が多いかということです。
また、お隣の経済大国、中国の経済回復に伴う木材需要の増加も挙げられます。さらにはコロナ禍による港湾処理能力の低下から木材を運ぶためのコンテナが不足、2021年3月にスエズ運河で発生した大型コンテナ船の座礁事故によるサプライチェーンの混乱が重なり、日本向けの欧州材と北米材が原材料(原木やラミナ)もろとも供給不足の状態に陥っています。
ウッドショックにより木材価格が上昇
ある家具店では、今年7月から一斉値上げに踏み切るとのことで、木製家具の値上げ幅は最大で2割。弊社では、メーカーの方が事前に協力してくれたので、クライアントや工務店さんには影響が出ずに済みました。しかし、もう少し遅ければ無垢のフローリングの採用も諦めざるをえなかったかもしれません。
アメリカでは木材の価格が3倍になったりしており、日本でも柱や梁などの構造材で2倍になったものもあるとのことです。軸組の材料が2倍になると、さすがに住宅建設に影響が出てきてしまいます。
日刊木材新聞社の調査では、ベイマツ乾燥材正角の4月の販売店価格は半年間で44%も上昇し、7万8000円/㎥。それでは輸入材に頼らず、国産材で調達をすればと思いますが、輸入材が入らないかわりに国産材の需要が高まっており、国産材も価格が上がっているとのことです。
森林大国の日本でなぜウッドショックが起きるのか
日本の森林面積は、国土の2/3と言われています。日本の山(林業)については、以前Blogにまとめたことがあるのでそちらの記事をチェックしてみてください。
日本の森林面積が2/3なのに木材が調達できず、海外の経済事情で木材の価格が急騰するのか。それは、日本の住宅業界が輸入材に依存し過ぎたことによると思います。
戦後高度成長の時に木材が足りなくなり輸入材を始め、この輸入材が安くて便利なのでとても増えたのですが、その結果何が起きたかというと、日本の林業が衰退したという経緯があります。
建築業界では「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2010年に施行されましたが、2019年の日本の木材の受給率は37.8%、その前年の2018年で36.6%、1年で1.2%しか増えていません。つまり、6割が輸入材ということです。ちなみに2019年の木材需給表によると、日本で建築に使われている製材用材の自給率は約51%、合板用材の自給率は約45%です。
柱などは国内で調達できる割合が高く、国産材の柱は4割で、輸入が6割。しかし、梁は強度や大断面が必要となるのでそうはいきません。梁材(横架材)の国産材使用率はわずか10%(集成材と製材の合計)です。
ウッドショックはいつまで
林野庁は2021年の4月中旬に「国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会」を臨時で開催し、その会で日本木材輸入協会は「米国の住宅ローンは3%前後と史上まれに見る低金利で住宅市場は好況なので、今年いっぱいは輸入材の供給不足が続く可能性がある」などと見解を示しています。
アメリカの2021年の4月の新築住宅販売件数は、前年比で1.5倍と絶好調。その背景には、前述したように住宅ローン金利が以前よりも低く、お金を借りやすくなっています。この低金利環境を作り出したのがアメリカの中央銀行にあたるFRB(Federal Reserve Board/連邦準備制度)。FRBはコロナ禍で低迷した景気を支えるために2020年の3月から政策金利をゼロ%に誘導するゼロ金利政策と市場に大量の資金を供給する量的緩和の2つの金融政策を実施してきました。
しかしこのゼロ金利政策を2023年に解除すると2021年の6月中旬に方針を示しました。これは想定外の早さです。FOBが開く会合、FOMC(Federal Open Market Committee/米連邦公開市場委員会)は、年末までの経済成長率(実質GDP成長率)を7.0%(前回6.5%)、物価上昇率を3.4%(前回2.4%)と見通しを上方修正し、こうした景気の急回復を受け、ゼロ金利政策解除の時期を「2024年以降」から「2023年」に前倒しする方針を示しました。さらに金融政策のもう一つの柱、「量的緩和」についても量的緩和縮小の議論を始めました。
今年はアメリカで住宅の駆け込み需要が増えるかもしれないので、やはり今年いっぱいはウッドショックが続くと考えられます。
過去にもウッドショックは起きている
過去にもウッドショックはあり、1990年台の初頭に世界的な天然林を保護運動をきっかけにして木材需給が逼迫したのが第1波。
第2波は2006年のインドネシアの伐採制限が引き金になり起きました。
今回は第3波なんですけど、コロナと経済状況絡みなので、第3波は長引くかもしれません。
コロナ倒産の上にさらなるウッドショック
新型コロナウイルスによる打撃は飲食店やホテル、アパレル業界だけではなく、「建設・工事業」にも大きな打撃を与え倒産件数が増えています。その打撃は、帝国データバンクの調査によると飲食店に次ぐ第2位。
なぜ、コロナにより建設・工事業の倒産が増えているかというと、飲食店の数は多く、その飲食店は流行の変化に対応するため店舗の出店や改装が頻繁に発生していましたが、コロナ禍で飲食店の工事需要がストップしてしまったため、建設業の関連倒産が増えています。
ウッドショックの中でどのように家づくりを進めるか
輸入材の価格高騰は、住宅で使われる木材に影響し工事金額に直結します。住宅工事の材料の発注は工事を進めながら発注するため、建主と工事会社が工事前に結ぶ工事請負契約の時点では材料を発注していません。しかし工事請負契約を結ぶには工事費用が確定しないと契約ができないため、材料を発注することを想定して見積をするのですが、このタイムラグが今回のようなウッドショックによる木材の高騰で見積金額に差額が生じてしまいます。
そのため、2021年06月時点で、工事請負契約の変更ができなければ木材価格の上昇分を建て主に請求できず、工事会社が負担しなければならなくなっている事象が出ています。住宅会社が自ら負担する費用は1契約当たり平均約55万円ぐらいとのこと。(日経クロステック参照)
このように契約後に工事金額が変わったり、材料の調達ができず工事期間が延びてしまうこともあるかもしれません。コロナ禍では、去年、水回り商品の部材の多くが中国で作られているということから、中国のコロナの影響でトイレが入らず、引渡しができななどの問題を聞きました。このように、今は不確定・不安定のことが多いので、トラブルを避けるために工事会社とは書面などで「覚書や合意書」を作成しておくことが必要かもしれません。
家づくりは大きなお金が必要になるため融資を受ける場合は、想定外の追加費用が発生することや、工事期間の延長による支払い時期の影響なども出てくるかもしれないので、事前に金融機関とも相談しておいた方がいいと思います。
材料価格は当分下がらないだろうと思っており、この低金利時代でこれから家づくりを考える方は多いと思いますが、前述のトラブル回避や、予算を上げる、予算を上げれない方は規模を最小限でプラン作りをするなど考えてみて下さい。効率的な動線や部屋の面積を従来の何々部屋は何畳などという固定概念を捨て、家全体のバランスを考えてプラ作りをしてみて下さい。また、弊社でよく説明するのですが、仕上げ材を使う空間によって価格のメリハリをつけるのもオススメです。
また、新築に拘らなければこの際に中古住宅のリノベーションを検討するのもいいと思います。築年数がある中古住宅は耐震性を検討しながら、築年数が浅い中古住宅を購入して、外装と内装を自分たちのイメージにあった雰囲気にリノベーション(DIYやセルフリノベーションも弊社ではオススメしています)するのも、構造材を使わない賢い住まい作りかもしれません。資金にゆとりができると心のゆとりが生まれますし、その後の生活にもゆとりが生まれると思います。
参考に、弊社で築41年の中古住宅をリノベーションした事例です。
「柏の家2(カフェのある家)」
こちらは低予算だったため、DIY・セルフリノベーションで内装を仕上げました。
「柏の家2(カフェのある家)の家づくり」
今後の建築業
コロナ禍で「建設・工事業(商業系)」の倒産件数が多く、このウッドショックで住宅系の工事会社が厳しくなり、さらにコロナにより業種によっては減給、ボーナスカットなども耳にしているので、これからの家づくりは少ない需要を取り合うのではないかと思っており、これからの生き残りを考えなければいけないと感じています。
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